平成17年度は、この10年にわたって積み重ねてきた白居易閑適文学研究の集大成・総決算を目指し、併せて唐代300年の閑適文学の考察を鋭意進めた。今年度の研究の基本となるスタンスは、自分がこれまでに刊行してきた緒論文を有機的にまとめ上げ、最終的には広義の白居易閑適詩に関する体系的・総合的研究の基盤を新たに構築することである。 この研究目標を効果的に遂行していくために、おおよそ以下の手順に従って研究作業を進めた。当方が設定した白居易閑適文学の大きな柱には【身体】【姿勢】【衰老】【疾病】【住居】【家族】【寺院】【詩文編集】などがあるが、まずこれらに関する今までの研究成果を電子データ化しなおし、個々の緒論考を全体のなかで相互に関連づけるための基本作業を行った。このために本研究の最終年度にあたる今年度予算は、自分が今までに蓄積してきた白居易閑適文学研究成果を電子データ処理(印刷経費を含む)することに専ら集中して使用し、この分野の研究を今後さらに広く展開していくための基盤整備の確立に充当した。 これらの基本作業に併行して取り組んだ課題は、平成15年度12月に発表した論文「白居易における洛陽履道里邸の意義」を継承する新たな論考「香山寺と白氏文集-閑適の完成」の執筆である。この論文は白居易閑適文学研究を総括する結論部となるもので、早稲田大学中国文学会編「中国文学研究」第31期(2005年12月)に掲載し発表することができた。またこれとは別に詩材と住居の問題を扱った論文「白居易における松と竹」も、2006年3月末に刊行される『松浦友久博士追悼記念中国古典文学論集』(研文出版)に発表し、白居易と閑適時空との問題を住居・庭園・寺院という「場」から考察しようとする従来からの研究構想に対して、一定の成果を得ることができた。今後のさらなる課題として、白居易以外の唐代詩人における閑適詩想・閑適詩材の分析と考察を進めていきたいと考えている。
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