本研究の目的は、第一に、チェンバレン(B.H.Chamberlain)の主著である『日本事物誌』(Things Japanese)の初版(1890)から最終の第6版(1939)までの全項目の変化と本文の異同を調査し、その変化の理由を、チェンバレン個人の思考ではなく、広く欧米人による日本研究、あるいは日本観全般の傾向に求め、その共謀関係を実証的に論証することにより、ほぼ半世紀にわたり存在した日本に対するオリエンタリズムの性格と特徴を明らかにしようとするものである。 本年はその初年度にあたるが、追加採用であったために、スタートが半年遅れ、当初の計画を変更せざるをえなかった。すなわち、計画では初年度にチェンバレンの『日本事物誌』の第一版から第六版までの主要項目の異同変化のすべてをデジタルデータとしてOCRにより確定するはずであったが、時間的に無理なために、基礎資料と基礎機材の購入をおこない、『日本事物誌』のうち「序論」「欧化」「流行」「日本人の特質」「ラフカディオ・ハーン」「文学」「伝道」「新聞」「宗教」「日本文字」の10項目の異同調査をおこなった。その結果として、たとえば「宗教」の変化にはチェンバレンが国家神道に対する評価が年をおうごとに厳しく辛らつになること、しかし他方では目本の土着宗教としての神道については研究の最初期から嫌悪と軽侮をもってながめていることが明らかとなり、そこに明治の外国人宣教師のキリスト教を価値の規準とするオリエンタリズム的思考が深く関係していることも明らかとなった。日本人は無宗教という根拠なき神話の淵源も、このチェンバレンら欧米の東洋研究者とキリスト教宣教師の共謀関係の所産である『日本事物誌』の「宗教」という項目にあることも突き止めた。
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