本研究の目的は、第一に、チェンバレン(B.H.Chamberlain)の主著である『日本事物誌』(Things Japanese)の初版(1890)から最終の第6版(1939)までの各版の本文の異同を調査し、その変化の理由を、チェンバレン個人の思考ではなく、広く欧米人による日本研究、あるいは日本観全般の傾向に求め、その共謀関係を実証的に論証することにより、ほぼ半世紀にわたり存在した日本に対するオリエンタリズムの性格と特徴を明らかにしようとするものである。 本年はその2年度にあたり、チェンバレンの『日本事物誌』の第一版から第六版までの主な異同変化をデジタルデータとしてOCRにより確定した。また、その異同の背景をなすさまざまな日本研究の動きを捕捉するための必要不可欠な文献、『日本アジア協会紀要』の復刻版や重要な単行本のリプリント版を購入し、鋭意、解読をすすめている。 まだ途中段階ではあるが、チェンバレンのさまざまな日本文化に対する価値判断、とりわけ日本人の国民性、宗教、文学、音楽、美術、道徳、などの文化の主要側面に対する価値判断の多くが、彼個人の独創的なものであるよりは、当時の欧米の日本観に由来する、つまりはオリエンタリズムに由来する、いわば欧米人の公式見解であることが論証できそうである。もちろん、当時の欧米人の日本観を完全に統計化し、平均化することは無理であるが、すくなくとも、当時の有力な日本研究の文献に共通性を見い出すことにより、その論証は可能である。そのための文献解読作業が本年度のもっとも重要な成果であるといえる。
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