本研究の目的は、第一に、チェンバレン(B.H.Chamberlain)の主著である『日本事物誌』(Things Japanese)の初版(1890)から最終の第6版(1939)までの各版の本文の異同を調査し、その変化の理由を、チェンバレン個人の思考ではなく、広く欧米人による日本研究、あるいは日本観全般の傾向に求め、その共謀関係を実証的に論証することにより、ほぼ半世紀にわたり存在した日本に対するオリエンタリズムの性格と特徴を明らかにしようとするものである。 3年にわたる研究期間の成果としては、チェンバレンの『日本事物誌』の第一版から第六版までの主要項目の異同変化をマイクロソフト社のワープロソフト・ワード(2003・ウィンドウズ版)の変更履歴機能を使い確定し、科学研究補助金成果報告書として冊子にまとめた。また幅広く利用の便をはかるために、同じデータと冊子に収録しきれなかったデータをホームページ上にデジタルデータとして公開するための準備作業をおこなった。また、各種文献を参照することにより、その異同の背後にある思想・文化の潮流を探り、2点の論文を刊行した。その結果、チェンバレンのさまざまな日本文化に対する価値判断、とりわけ日本人の国民性、宗教、文学、音楽、美術、道徳、などの文化の主要側面に対する価値判断の多くが、彼個人の独創的なものであるよりは、当時の欧米の日本観に由来する、つまりはオリエンタリズムに由来する、いわば欧米人の公式見解であることが論証できた。
|