漢詩は、東アジアの共有の文化遺産である。琉球王国時代に琉球で作られた漢詩(琉球漢詩)は、日本、中国、朝鮮、安南等の地域と密接な関係を持っている。琉球の詩人が福建や北京などの地を訪れて作品を作ったり、その土地の詩人と贈答をしたり、琉球を訪れた中国や日本の詩人が、琉球を題材にした作品を残したりしている。また、周辺の朝貢国の使節と、福州や北京などの土地でお互いに詩文のやりとりをしており、それぞれの地域の記録にはこれらの記録が残されている。詩文を含むこれらの記録は、中国を中心とする東アジア漢字文化圏内の文化の動向を見るうえで貴重なものである。 今年度は、ベトナム(ハノイ)における調査を実施して多くの漢文資料を収集した。ベトナムでは、ハノイのハンナム研究院を中心にして、東アジアの国際秩序(朝貢体制)の崩壊を、ベトナム・琉球・朝鮮の国家存亡の危機としてとらえ、民族の自立と衿持を説いた思想家・運動家の詩文を中心にして漢文資料の収集に当たった。 前年度は、最近ベトナム関係の漢籍資料についてフランスの機関と共同で資料の調査・出版を継続している台湾において、その関係の資料の調査と文献の収集を行った。先に中国福建省とベトナムにおいて収集した資料の整理と分析を通して、学会等で発表した。その一部は、「程順則の父と子--程順則の情愛と苦悩」(「琉球大学法文学部紀要日本東洋文化論集第12号2006年3月」、「琉球における儒学の受容」(邊縁儒学與非漢儒学:東亜儒学的比較視野(17〜20世紀)国際学術検討會報告台湾大学2006年3月「臺湾東亜文明研究學刊」第3期第1期2006年6月所収)、「琉球への漢籍の伝播と受容」(「東亜漢語漢文的翻訳・伝播與激撞十七世紀至二十世紀」學術検討會報告)として発表している。
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