平成16年度の成果は以下の3点である。 1 本年度の研究計画に基づき、フローレンス・ナイティンゲールによる英国とインドにおける衛生改革の提言の諸相を調査した。また、2月に渡英し、British LibraryとNewspaper Libraryでアングロ・インディアン系の雑誌と新聞を調査した際には、ナイティンゲールの寄稿論文に対する英国内、並びにインドでの反応を記録した文献に触れ、ナイティンゲールの理想とインドの現状の乖離、行政と民間の問題意識の差異を確認することができた。ナイティンゲールによる英国とインドにおける衛生改革に関しては、来る5月の日本英文学会全国大会にて、Notes on Nursing(1860)と、Life or Death in India(1874)を中心に、ナイティンゲールが論じる健全なる国家像と植民地支配について報告する。 2 ナイティンゲールの英国・インドの衛生改革を調査した過程で、彼女がインドの土地所有制度にも強い興味を示し、英国のインド支配の成功と安定は英国による土地所有制度の改革にあるとすら考えていたことがわかった。彼女にとっては専門外の領域といえるが、内外から多くの情報と資料を手に入れ、精力的な執筆活動を通じて、この問題を英国の人々に認識させようとしたのである。この問題に関しては、所属する研究会において、ナイティンゲールによるインドの貧しい農民をめぐる言説における権力構造、またその権力関係における他者表象について報告した。更なる考察を行い、平成17年度中には活字にしたい。 3 日本ギャスケル協会の『ギャスケル論集』に掲載した論文「『シルヴィアの恋人』たちにみる国家政策とジェンダー」の一部において、ナイティンゲールとヴィクトリア女王の二人の自己・他者表象の諸相を分析した。
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