研究概要 |
平成17年度の成果は以下の通りである。 1 昨年度にフローレンス・ナイティンゲールに関する英国・インド両国における衛生活動について研究した成果を、第77回日本英文学会大会(平成17年5月22日於日本大学)において、「帝国を『看護』する-フローレンス・ナイティンゲールの『看護覚え書』と『インドにおける生と死』」と題し、研究発表を行った。また、この発表に基づいた論文は近く活字になる予定である。 2 ジョセフィン・バトラーの著書、雑誌寄稿論文、パンフレットなど、広範囲に渡る文献を読む予定であったが、その作業を進めている段階で、19世紀後半のフェミニスト女性による東洋の女性の表象を調査することが必要と考えた。そのため、8月に渡英し、オックスフォード大学のBodleian図書館でEnglish Woman's JournalとEnglish Woman's Reviewといった雑誌を中心に、フェミニストの自己・他者表象を調査した。特に、English Woman's Reviewでは、女性参政権運動、女子高等教育の改革、雇用機会拡大の動きをめぐるフェミニストの論考において、植民地女性への言及が多くなされている。英国のフェミニストは東洋の女性を家父長制の慣習に縛られ、虐げられた女性として表象することで、自らを自由で平等な国家に生きる教養高き、道徳的な女性として位置づけ、東洋女性と自らを峻別するのである。これは、18世紀のフェミニスト、キャサリン・マコーレーや、メアリ・ウルストンクラフトのレトリックを継承しているものと思われる。英国のフェミニスト女性のアイデンティティ形成に、東洋の女性が必要不可欠であったのである。同時にフェミニスト雑誌にみられる英国女性の自己・他者表象は、他国の文明化を使命とする国家において、女性が様々な権利を享有できない事実に疑問を呈する戦略でもあったと言えるだろう。 3 拙論、"The Rise of Angels with Wings of Clay : The Cult of Domesticity and Sarah Stickney Ellis' Conduct Books", Studies in English Literature 47(2006):87-103において、19世紀の指南書から理想的女性像の表象を分析した。
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