平成18年度の研究成果は以下の通りである。 1 平成18年5月に英国ハル大学でのカンファレンス‘Literary North Conference'(テーマは文学における英国北部の表象)において、‘Policing and Caring for the Social Body:‘Woman's Work'in Elizabeth Gaskell's North and South'と題して、研究発表を行った。本発表では、まず、前年度にオックスフォード大学のBodleian図書館で調査したThe English Woman's Journalにおける記事のなかから、女性の社会活動、とりわけ下層階級の家庭の訪問活動に関する論説における中流階級女性の自己・他者表象のレトリックを検証した。そのうえで、同時代の英国北部工業都市の労使問題を描いた文学テクストにおいては、労働者へ共感を寄せるヒロインの行為が、上記のフェミニスト雑誌でのレトリックと同様に、女性の領域活動の拡大と連関していることを明らかにした。さらに、North and Southでは、家庭と社会におけるジェンダー・ヒエラルキーの再編が意図されていることを示唆した。 2 平成18年7月に英国ロンドン大学、Royal Holloway Collegeで開催されたカンファレンス‘Beyond Widening Sphere : Transatlantic Perspectives on Victorian Women Conference'において、‘Florence Nightingale's Scheme for Building a‘Healthy'Nation'と題して、研究発表を行った。本発表では、ヴィクトリア朝中期の女性の慈善活動を再考しながら、ナイティンゲールが執筆を通して社会活動をした事実と、彼女がフェミニストとは一線を画しながらも、英国女性を巻き込み、健全な大英帝国の建設を構想した様相を論じた。彼女の執筆活動は、国内ならびに帝国の政治における男性の独占体制への挑戦であると言えよう。さらに、1880年代のThe Englishwoman's Reviewに掲載された論説の多くが、地方政治への女性参加を要求していることを視野に入れ、女性の慈善活動と政治性の関連を今後の課題の一つとしたい。 3 拙論、「帝国を『看護』する-フローレンス・ナイティンゲールのNotes and NursingとLife or Death in India」、『英文学研究』第83巻(2006):15-28において、ナイティンゲールの英国とインドにおける衛生改革の著作を中心に、彼女の帝国主義への傾倒と抵抗の二面性を考察した。
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