中国詩歌の歴史が宋元以降、「唐音」「宋調」を二大規範として展開し、いわゆる「唐宋詩の争い」がこの規範に対する評価と各時代の対応の成果であることを、ひとつは宋・元・金期における唐詩の選集・入選状況およびそれらに付された施注事業を通して考察し、他ひとつはこの時期の文学理論との関わりを通して研究した。前者においては、本年度はとくに王安石『唐百家詩選』・元好間編選『唐詩鼓吹』・楊士弘編選『唐音』を主にみた。そのうち、伝本の過程および注釈の累加といった観点からは、『唐詩鼓吹』に注目した。無注本(原注)から〓天挺注、参評・眉批におよぶ施注の態度の変遷が比較的明確にうかがわれ、従来の経学における名物考証的な施注から詩歌を作品としてとらえ構造的かつ鑑賞的視点を導入していった経緯を見るに好個の例である。 また、入選作品の傾向は、後世のいわゆる「中唐」「晩唐」の作品が多くを占め、宋・元・金における中晩唐詩の好尚を証明することになり、とくに律詩を重視する傾向を指摘できる。この背景には、作詩人口の増加に伴う平易性の追求、詩歌作品の解釈を通した啓蒙的役割、従来の名物考証的な注釈への不満、書物の流通拡大、などが考えられる。同時に、経学から文学意識の派生がうかがわれ、平成17年度の課題としたい。研究史を概観すべく『宋元金期における唐詩研究関係文献目録』のデータ化に着手した。
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