今年度はこれまでの研究成果をまとめ、以下2回の研究発表を行った。 1.「中国抗日戦争民族解放戦争に於ける長谷川テル-『戦う中国で』を中心に-」 日中言語文化研究国際シンポジウムにて、平成18年8月(於:中国社会科学院 世界文学研究所) [内容] 長谷川テルがエスペランティストとして抗日戦争に参加しようとしながらままならない現実を、その『戦う中国で』の表現の中から浮き彫りにした。特に言語の相克に注視し、異なる言語により生死の狭間をゆきかねない状況とそこに生きる苦悩を指摘した。 2.「中国抗日戦争に於ける緑川英子-『戦う中国で』を中心に-」 研究会「文化論の概念と方法」にて、平成18年11月(於:国際日本文化研究センター) [内容] 長谷川テルが緑川英子と称して執筆した『戦う中国で』を中心に、日本での生活を描いたフィクション部分を検討した。また、言語の相克によって抗日戦争参加がままならない苦悩の背景にある上海の社会・文化状況を明からにした。更に、その後の漢口・重慶・佳木斯での文化工作委員会の内実と、緑川英子の活動状況を中国側の資料を用いて報告した。 1については長谷川テルの活動した中国での発表であり、日中関係の改善のためにも彼女のような存在があったことを中国側に再提示するよい機会になったと考える。2は1の前後の時期の長谷川テルについて主に述べたものである。2に於いて国際日本文化研究センターの鈴木貞美教授より、全体の評伝を単著としてまとめたほうがよい、とのアドバイスをいただいたため、現在、準備中である。
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