本年度はおもに、『楽書』の訳注を作成した。また、『楽書』に挙げられている唐代音楽に関連してシンポジウムと学会発表を行った。 訳注作成の底本としては、昨年度の版本調査の結果から、国立国会図書館所蔵の『楽書』二百巻総目二十巻を使用した。これは清の林宇沖の校勘により、光緒三年に出版されたもので、菊坡精舎蔵板(方濬師刊)と記載されたものである。これを底本とするのは、調査の結果一般に使用されている四庫全書本には欠損している箇所が多々あり、より多くそれを補うことができるのが本書であったからである。しかし本書のなかにも読みにくい箇所があり、その場合は随時四庫全書本のほうを利用して解釈をおこなった。『楽書』二百巻のなかでも、今年度はとりわけ巻一百二十五から始まる胡楽楽器を扱った部分の訳出を中心に行った。そこに宋代人の胡楽に対する認識を垣間見ることができ、またそれぞれの胡楽器がどのように伝承されているのかを知ることも、中国音楽の流れを知るうえでも有益であった。それは、2005年度末出版予定の『中国文化研究』22号に「陳陽『楽書』の研究(2)」として掲載された。 また研究分担者の齋藤の所属している大阪市立大学において以下のようなシンポジウムが開催され、そこで中と齋藤は研究発表を行った。「第56回大阪市立大学中国学会(7月9日、於大阪市大文化交流センター)・シンポジウム「中国古典音楽と文学」」齋藤茂の題目は「文献研究の問題点と可能性」、中純子の題目は「李白と盛唐音楽 一楽府と詞のはざまで」であった。齋藤はそこで『楽書』訳注作成の意義と問題点も明らかにした。また中は『楽書』に取り上げられる唐代音楽のなかでも、盛唐音楽に関して、李白の詩篇から考えられることを述べた。また中は9月に中国の杭州にある浙江工業大学で開かれた宋代文学国際検討会においても、盛唐音楽と李白の詩篇についての学会発表を行った。
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