陳暘『楽書』の胡楽部分の訳注を、楽器(巻125〜巻131)(中純子担当)・歌(巻158・巻159)(研究協力者長谷川愼担当)・舞(巻173・巻174)(齋藤茂担当)について、完成した。それにより、胡楽に関する宋代の音楽観が明確になった。そこには伝統的な儒家の礼楽観を色濃く反映した胡楽への見方があらわれており、胡楽をおおいに取り入れたとされている唐代の玄宗などは厳しい批判の対象となっている。一方で、宋代には残存していた『唐楽図』などにみえる胡楽器の数々を記録しておこうという姿も窺える。また、『楽書』に記された音楽関係の故事は『太平御覧』からの引用が多いことも、今回の訳注作成によって明らかになった事実である。 さらに中は論文「北宋期における唐代音楽像-『新唐書』「礼楽志」を中心にして」において、陳暘も含めた北宋期の文人のもつ唐代音楽観について、従来唐代音楽を知る第一級の資料とされる『新唐書』「礼楽志」が唐代音楽の実像というより、より多く宋代人の関心に則してまとめられていることを考究した。これによって、陳暘『楽書』の成立した時代の音楽観について、ひとつのあり方を提示した。また同じく中の「涼州詞と涼州曲」の論文では、従来胡楽の影響という点から捉えられていた唐代の曲を、胡楽がいかに中国化していくかという視点で論究した。これも、「陳暘『楽書』の研究」によって、胡楽に対する宋代文人の捉え方の傾向を明らかにしたことを土台とした研究である。宋代資料に依拠したこれまでの唐代音楽についての認識から、可能なかぎり唐代資料による唐代音楽の解明を目指したものである。
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