研究概要 |
古典アルメニア語とゴート語による新約聖書翻訳テクストとギリシア語公認テクストとの比較分析に基づき、アルメニア語およびゴート語とギリシア語との対応関係ないし異同を、条件文、疑問文、等位構造、関係節構造、アルメニア語接続詞t'e, et'e, ziとゴート語接続詞ei, beiの機能、そして談話構造に関して考察した結果、ギリシア語原文への忠実性を最大限に尊重する聖書翻訳にあっても、アルメニア語・ゴート語それぞれに内的かつ自律的な規則の体系のもとに統辞法が管理されていることを明らかにした。また、アルメニア語においてギリシア語原文から逸脱した異訳現象を重要な手がかりとして、中期イラン語、特にパルティア語を中心とする北西イラン方言の統辞法的特徴がアルメニア語統辞法に対して実際に影響を及ぼしたのか、そして及ぼしたとすればそれはどの程度の影響であったのかという問題を、言語学的・文献学的に調査した結果、従来想像されていたほどに強い影響はなかったのではないかとの暫定的な結論を得た。こうした分析結果を受けて、新約聖書ギリシア語を共通の比較の基盤として、アルメニア語とゴート語にそれぞれ固有の統辞法的特徴が安全に比定され、新約聖書福音書のうち特に「マルコによる福音書」をテクスト・サンプルとして、研究成果報告書では等位構造、関係節構造、従属接続詞の機能、動詞接頭辞に対するアルメニア語翻訳の特徴、談話構造等について比較統辞法的な分析と記述を試みた。
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