研究概要 |
1.ドイツ語と日本語における移動様態動詞(verbs of manner of motion)の相違: Talmy(1985)等の先行研究において,数多くの移動様態動詞が存在することがドイツ語(ないしゲルマン語)の特性とみなされている。しかし,フランス語にも多くの移動様態動詞がみとめられるため,移動様態動詞の数的な豊富さをゲルマン語の特質とみなすことは適切ではなく,むしろ,ドイツ語においては移動物がある一定の期間,目標地点に滞在するという意味を前置詞句が持ちうる点が重要である。つまり,ドイツ語においては前置詞句が動詞が持つ意味とは異なる出来事をあらわすことができる。日本語においては,移動様態動詞と用いられた「まで」は動詞の意味を明示するのみであり,別の出来事をあらわすことはできない。同様の相違はいわゆる結果構文にも観察されるため,ドイツ語(ないしゲルマン語)では「動詞の意味とは独立した出来事を前置詞句および形容詞句により付加することができる」という一般化が可能になる。 2.英語とドイツ語(ないしオランダ語)の二重目的語構文: 例えば英語のthrowは二重目的語を選択できるが,対応するドイツ語やオランダ語の動詞(werfen/gooien)は与格ないし間接目的語を持つことができない。この場合,ドイツ語とオランダ語ではparticleを付加することにより与格ないし間接目的語を持つことができるようになるが,この点はいわゆる自由な与格(free dative)の存在と相関している。 3.英語とドイツ語(ないしオランダ語)のparticle verbの相違: 例えば「…に微笑みかける」という状況を,英語ではsmile atという自動詞と前置詞句により表現するが,ドイツ語とオランダ語ではanlacheln/toelachenというparticleが付加された他動詞により表現する。この相違はSVO/SOVという対立と相関している。
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