研究概要 |
1.ドイツ語とオランダ語の不変化詞動詞の相違: ドイツ語では,方向をあらわす前置詞ZU‘to'は不変化詞としても用いられるが,オランダ語ではzuに対応するtoeは不変化詞にはならない。例えばドイツ語のzureiten ‘ride toward'は,オランダ語では^*toerijdenにならないわけである。この相違は,ドイツ語には例えばjn. der Gefahr aussetzen ‘expose sb. to a danger'ように,いわゆるlow dativeが存在するのに対して,オランダ語にはlow dativeは存在しないことと相関している。すなわち,zureiten ‘ride toward' vs. ^*toerijdenの対立は,ドイツ語では「方向」そのものを与格によりコード化できるのに対して,オランダ語ではそれが不可能である点に起因する。 2.英語とドイツ語(ないしオランダ語)の不変化詞動詞の相違: すでに平成17年度において,例えば「...に微笑みかける」という状況を,英語では不変化詞動詞により表現できないのに対して,ドイツ語とオランダ語ではanlacheln/toelachenという不変化詞動詞により表現するという対立は,SVO/SOVと相関している点を明らかにしている。本年度は,i)さらに英語を歴史的に眺め,定動詞の位置の変化に伴い,不変化詞が「結果」の意味を担うように強いられたこと,ii)英語以外のSVO言語である北欧語についても同様のことが成り立つことを明らかにした。 3.不変化動詞と結果構文の相違: ドイツ語では,「押し開ける」という出来事をaufdruckenという不変化詞動詞とoffen druckenという結果構文の両方で表現できるが,これらの相違は動作主の働きかけの強さに基づく。すなわち,例えば「押すことにより自然にドアが開く」場合には不変化詞動詞が,「押してもなかなかドアが開かず,その後やっと開く」場合には結果構文が用いられる。不変化詞は,結果句(result phrase)よりも単純な統語構造を持っていると思われ,ここには「単純な出来事を表す際には単純な構造が用いられる」という原則が想定できる。
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