音節の重さがアクセント型の決定にどのような役割を果たすかという観点からラテン語と古典ギリシャ語の両言語を比較すればどのような知見が得られるかを検討した。従来は、重い(長い)音節は軽い音節よりもアクセントを担う要素としてより適切であるという考えに基づいたアクセント研究がなされてきた。しかしそのような傾向に一見したところ大きく反するような言語が存在する。それが古典ギリシャ語である。本研究の主張は、古典ギリシャ語は重い(長い)音節がアクセント領域を決定する場合に重要な役割ははたすものの、ラテンとはその機能が鏡像のような逆の関係になっていることを示すことにある。古典ギリシャ語のアクセント付与は重い音節がアクセントを担いやすい要素として機能するのではなく、語末に近い位置にある長い音節を基点としてそこから左方向「3モーラ」の位置にアクセントが置かれるという一般化ができる。これまでの音韻論は「語末から数えて3モーラ(ただし短い音節はカウントしない)」というアルゴリズムを用いてきたため、なぜ語末の短い音節をカウントしないのかということは理論的に問題とされてこなかったという問題がある。本研究では語末にある短母音でもその前が短母音であれば、「短い音節二個で長い音節一個に相当=フット」という仕組みを用いてアクセント位置を「フットの左に隣接するモーラ」として規定できるのである。これは動詞のパラダイムにおけるアクセント移動(可能な限りアクセントを後退させる)は言うに及ばず、名詞および形容詞の語形変化で観察されるアクセント移動にも機能している原理である。ラテン語はこれに対してできるだけ語末に近い位置にある重い音節ないし軽い音節の連続を基点としてアクセントが付与される。ただしその右にはかならず一個だけ音節が存在しなければならないという制約をうける。言うまでもなく、このような鏡像関係がどのようなことを意味するのかをさらに追求する必要がある。
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