これまでは一般にアクセントを担う単位を音節に限定し、長母音や二重母音の第二要素がアクセントを担うことをアクセントの移動規則で処理することがおこなわれてきた。しかし、日本語でも関西方言などにはこのような「音節」中心の原理が必ずしも機能しているとは言えないことは多くの先行研究が指摘しているところである。このような現象は日本語を見ているだけでは十分な理解が得られない可能性が大である。過去の3年間は主に古典ギリシャ語とラテン語のアクセントを支配する原理を追及し、見かけが大きく異なる二つのアクセントシステムが鏡像関係をなしているという結論を得た。そして、研究最終年度は国内の方言データが豊富な関西弁の呼称選択の音韻分析をおこなった。具体的には「さん」〜「はん」〜「っつぁん」というような呼称の選択を支配している原理が何かということである。関西弁では「ん」でおわる氏名と「はん」という呼称が結びつきにくいということが知られている。また高段母音/i//u/で終わる氏名も「はん」を避けるという事実が指摘されている。この二つの現象は独立したものではなく、聞こえ度が接近する音節の連続を避けるという制約が機能しているための現象であるという結論を導きだした。また、数詞が示す特殊なふるまいにはどのような原理が機能しているかという分析をおこない、和語・漢語・混成という三系列の数詞が語彙体系としてどのように機能し、それが音韻現象にどのように反映されているかということも検討した、
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