本研究の目的は、フィンランド語の格の中で特に文法機能を表示するのに用いられる格、すなわち主格・属格・分格の用法が時代と共にどのように変遷してきたかを探ることにある。研究代表者は、これまで共時態におけるこれらの格の用法とその使い分けの原理を明らかにしてきたが、その説明が通時的な変化に照らして妥当なものであるかを検証することが本研究の眼目である。 19年度までの4年にわたる研究の二年度目である本年度は、前年度に引き続き、基礎資料の収集および整理に取り組んだほか、収集した資料を分析し、その分析に基づいて研究成果を論文にまとめた。 前年度に収集した資料は、研究代表者自身で整理すると共に、大学院生に謝金を支払って資料のデータ化を依頼した。また、ヘルシンキ大学およびフィンランド国語研究所の言語コーパス、フィンランドのCSC(Centre for Scientific Computing)が公開しているテキストデータベースを使って資料の収集を続けたほか、1月にはフィンランドに渡航し、ヘルシンキ大学フィンランド語学科のアーカイブ(muoto-opin arkisto)で資料の調査収集を行った。東京大学および関西外国語大学の図書館でも関係資料を収集した。 本年度の当初の計画では、8月にロシア連邦マリ共和国で開催された第10回国際フィン・ウゴル学会議で研究発表を行う予定であったが、現地の民族問題に起因する政治的な緊張により参加者が激減し、研究発表を行っても所期の成果が期待できない情勢となったため、会議への参加は見送り、来年度6月にデンマークで開催される第22回スカンジナビア言語学会で研究発表を行うよう計画を変更した。 本年度までの研究成果の一部は、On the Diachronic Development of the Permissive Construction in the Finnish Languageという題の論文にまとめた。本論文では、フィンランド語の許可を表わす構文に現れる不定詞の意味上の主語を表わす格の通時的な変遷について考察した。
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