研究概要 |
実施初年度に当たる本年度は、音韻獲得、音韻喪失ともに、データの収集に努めた。新しいプロジェクトである音韻喪失に関しては、わかくさ龍間リハビリテーション病院の言語治療室のご協力を得て、さまざまなタイプの失語症患者のリハビリテーションの過程を観察させていただき、またデータも得ることができた。データは、質・量ともに充分とはいいがたいので、来年度も引き続き、収集を続ける予定である。音韻獲得に関しては、昨年度までの研究課題(『幼児の音韻障害の言語学に基づく臨床分析方法の確立』課題番号:13610657)との連続性を保ちながら、幼児の音韻獲得の過程と機能性音韻障害を現代音韻理論から引き続き分析をおこない、Ueda and Davis(2004)として発表した。内容は、主として幼児のラ行音の獲得と誤構音に関するものである。ラ行音の獲得には、いくつかの獲得の「道筋」があり、それにともなって、一定のパターンの誤構音が観察される。これを最適性理論から論じ、この「道筋」は、音韻制約のランキングが、限られた数のリランキングプロセスを経ながら発達すると考えると、予測可能であると論じたものである。 また音韻獲得・喪失などの漸次的な動的変化には、Anderson,Ewenらが提唱する、「依存音韻論」が有効であるので、この理論の応用可能性を、上田(2004)において、探っている。来年度も引き続き、音韻獲得や喪失を記述・分析するのに適したモデルを模索する予定である。
|