2年目の今年度は、主として(1)音韻獲得に関して、音韻理論からの類型論的検討。(2)幼児の構音障害や失語症患者など音韻喪失に関して、わが国の臨床現場の現状の把握。以上の2点に関する研究を主としておこなった。 (1)に関しては、正常発達児や機能性構音障害児の音韻獲得に関して、現在音韻理論でもっとも有力な「最適性理論(Optimality Theory)」から、音韻獲得の類型論的な考察をおこなった。より具体的には、最適性理論の基盤をなす概念である「入力」、「出力」、「制約のランキング」の3者が、それぞれ正常か逸脱かどちらかである可能性があり、それらの組み合わせにより、構音障害は7つのタイプに類型化できることを、Ueda(2005)において主張した。これによって、従来は典型的なパターンの構音障害の陰で、例外とされてきた症例が説明できることとなった。またこれまで音韻獲得では、訓練期間の長短、一般化学習の有無、教えられない音(類)の自然獲得の有無、などによって、質的に良い学習者とそうでない学習者の存在が認められてきたが、このような機能的な発達上の違いも、上記の類型化で説明することが可能になった。 この最適性理論は、未公刊論文であるPrince and Smolensky (1993)により誕生した理論であるが、これが2004年に出版されたのを機会に、書評をおこなったものが、上田(2005)である。 (2)に関しては、Sharynne McLeodの編集になる、英語の主要変種や方言と世界の主要言語における音韻獲得を概観する、International Guide to Speech Acquisition (Thomson Delmar Learning社から出版予定)の1章である、Japanese Speech Acquisitionの章を共著で執筆し、特にわが国の臨床現場に関する部分を担当している。
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