研究概要 |
平成16年度においてはbekommen-受動態を中心に,bekommenの語彙的意味が失われていないとするHaider(1984)と,それに対するReis(1985)等の批判を検証した。Haiderは反論を受け,本動詞と助動詞の中間に位置する「寄生的動詞」という概念を持ち出してきたが,当該構文のbekommenは語彙的形式から文法的形式への過渡的形式とも見倣せるため,彼の「寄生的動詞」概念はbekommenの「文法化」問題への嚆矢とも言える。さらに当該ドイツ語構文の中に,「受け手」の「主語」化,さらには「題目」化を通してなされるLi/Thompson(1976)の言う題目優位型言語への類型論的接近を見て取ることもできる。平成17年度においては,ドイツ語の助動詞構文の一つと見倣せる完了時制を扱い,その生成要因を,habenの対格目的語における「具象名詞→代名詞→ゼロ形式」といった歴史的推移に見た。さらにドイツ語機能動詞構造における動作名詞の後置が,「題目+解説」という情報伝達上の機能論的分節に寄与すると見倣し,当該構文が単なる単一動詞の「拡張形」以上のコミュニケーション的機能を備えているとした。平成18年度は,ドイツ語機能動詞構造を手掛かりに,機能論的類型論的にドイツ語と日本語の構文比較を行なった。日本語の副詞は,ドイツ語機能動詞構造では,動作名詞の付加語的形容詞に対応するが,当該形容詞の付加が機能動詞構造では制限されていることから,ドイツ語が基本的に「事態核」(Polenz 1963)を表現する言語であることが明らかになった。それに対し日本語は,オノマトペの多用や「よちよち歩き」「ザーザー降り」といった複合語でもわかるように,副詞的要素の構文論的立場が高い。つまり副詞的要素に焦点を当てれば,ドイツ語は「低副詞型言語」,日本語は「高副詞型言語」と類型論的に位置づけることも可能であろう。
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