今年度は被験者の関係上8月初めに秋田、青森にフィールド調査に出かけた。秋田は阿仁マタギを、青森は目屋マタギを中心にその語彙・意味を収集した。具体的には昨年入院していて会うことができなかった、阿仁町比立内に住む松橋時幸さんにインタビューをお願いした。インタビューに先駆け、昨年作成した語彙表を携え、事前に松橋さんに見ていただき、阿仁マタギが使っている語のみに焦点をあて、その語の存在を確認するとともに、その使われている語彙の高低アクセントも確認した。今年は昨年以上に語彙を収集することができた。マタギ語彙の収集と同時にそれにまつわるお話もしていただき、マタギについての知識をさらに得た。 また青森では今年も西津軽郡西目屋村の工藤光治さんにお願いし、目屋マタギ語彙を事前に確認し、実際にインタビューをしてどの語が使われているのかを確認した上で、より多くの語を収集した。昨年アクセントまでは語彙記述に十分反映させることができなかったので、今年は高低アクセントにも注意を払い、語彙を収集した。そのため、来年度も工藤さんを訪ねる予定である。今年収集した語のデータベース化を推し進めており、入力し終わったところである。 今回の語彙調査で再確認したことはマタギと称している人はある程度の人数はいるが、実際にマタギの儀式や豊富な知識、そしてマタギ語彙に精通している人はほとんどおらず、「マタギの里」として知られる阿仁町比立内においてさえも松橋さんと佐藤さんの2名しかいないが、佐藤さんはマタギ語彙に関しては不確かなものも多く、松橋さんしか語彙について確定できる人がいなかったことである。また西目屋村でも工藤さんのほかにマタギを名乗る人はいるが、実際にマタギ語彙が使える人は工藤さんのみである。また今年予定にいれようと思っていた岩手マタギは実際に事前に岩手県のあちこちの町役場に問い合わせて調査したが、マタギをしている人はいても実際にはマタギ語彙が聞けるほどのマタギはいないといわれたので、岩手マタギは調査できなかった。
|