研究概要 |
本年度は、OT統語論とOT意味諭の交差する領域として、表現不可能性問題(ineffability problem)に焦点を当てた。具体的には、イタリア語と英語の多重wh疑問文を取り上げ、Legendre, Smolensky and Wilson(1998)で提案されたParse(wh)を用いた解決案が妥当でないことを、単方向的OT統語論と単方向的OT意味論、及び、双方的OTの観点から考察した。Legendre, et al.のアプローチでは、多重wh疑問文が引き起こす違反は、[wh]素性が解析されない場合の違反より上位にランクされる。例えば、イタリア語ではwho has said what?に対応する文は非文であるが、これは、目的語whの[wh]素性が解析されず、somethingとして出力されたwho has said somethingが最適解となるためであると分析される。かれらのアプローチは、単方向的OTを用いている限り、問題は生じない。しかし、双方向的OTで考えた場合、興味深い問題を提示する。双方向的OTでは、文形式からみた最適解釈と、意味解釈から見た最適形式が一致した場合、最適な形式-意味のペアとなる。しかし、Parse(wh)を用いた分析の場合、文形式who has said somethingと文解釈who has said whatは最適ペアになることはない。なぜなら、文解釈who has said what はwho has said somethingとして出力されることがないからである。このことは、そもそも、Parse(wh)という制約が必要なのかという疑問を提示する。本年度は、Parse(wh)を用いず、D-linkingの違反可能性と単文意味入力に対する、複文統語出力を用いた解決案を提案した。
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