本研究の目的は、日本在住の英語母語話者が出身国以外の英語との方言接触や、非英語母語話者との接触により、言語特性にどのような影響を受け、どのようなバリエーションと変化が言語に現れるか社会言語学的に調査することにある。 平成18年度は方言接触に焦点をあて、日本在住英語母語話者のコミュニティー内で様々な英語方言話者同士が接触することが、言語にどのような影響を与えるか調査した。調査対象は‘letter'や‘get et'など語中や語間に現れる母音間の/t/で、出身地域によって使用頻度が異なる破裂音、弾音、声門閉鎖音の変異音使用が、方言接触によってどう変化するか検証した。分析用の言語データは、米国、英国、ニュージーランド出身者ら英語母語話者から、来日直後と約1年後の2度にわたって収集した自然談話を利用した。また日本での交友関係に関する聴き取り調査の結果を基に、それぞれの話者のソーシャルネットワークをスコア化した。 来日直後と日本滞在1年後の母音間の/t/の発音を分析し出身国別に比較した結果、使用頻度に有意な差の生じる変異音が見られた。また話者個人に観察されるそれぞれの変異音の使用頻度における変化は、その話者の様々なソーシャルネットワークの強弱と相関関係のあることが判明した。同じ出身国・地域の人とのネットワークの強弱に応じて、自分の出身地域に特徴的な変異音の使用が増減する傾向や、他の国・地域出身の人とのネットワークの強弱に応じて、その地域に特徴的な変異音の使用が増減する傾向が見られた。すなわち方言接触によって言語が受ける影響には、話者の交友関係が関与することが明らかとなった。 以上の研究成果はLangUE 2006、16^<th> Sociolinguistics Symposium、第18回社会言語科学会大会において報告した。
|