研究概要 |
本研究は(1)X線マイクロビーム発話データベースを用いて健常発話者と運動性構音障害を持つ発話者の調音運動特徴の詳細な記述を行うこと(2)運動性構音障害の調音運動特徴の言語間比較研究可能性を探ること、を目的とする。(注:"articulation"の訳語として音声学では「調音」、医学では「構音」が使われることが多い。「調音」と「構音」は同義とする。) 2004年度は前年から行われている発語失行症の調音運動研究を発展させ、"normal""slow""fast"の3種の発話速度における口唇と下顎の運動データを分析することにより発話速度の調音運動、特に調音器官の運動スピードに与える影響を解明した。下唇と下顎のスピードピークのタイミングを検討することにより、2つの調音器官のタイミング制御の分析を行った。発話速度の低下は発語失行症の特徴であるが、従来の発語失行症調音運動の研究では発語失行症と健常者の発話を発話速度を統制することなく比較していた(McNeil, Caligiuri & Rosenbek, 1989)。一方健常者がゆっくり発話した場合に調音器官運動スピードのパターンが変化することが報告されており(Adams, Weismer & Kent, 1993)、従来の研究で報告された健常者と発語失行症との調音運動の違いは発話速度の違いに起因するものであるのか否かが不明であった。本研究では発語失行群と"normal rate"で発話した場合の健常群との間には、本研究で対象とした調音運動パラメータについては差が認められるが、"slow rate"で発話した場合の健常群と発語失行群では差は観察されないことが判明した。結果の一部はInternational Clinical Phonetics and Linguistics Association 2004(LaFayette, Luisiana, USA)にて発表された。
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