研究概要 |
本研究では,X線マイクロビームを用いて収集された若年健常者複数名からなるX線マイクロビーム米語発話データベース及び運動性構音障害(発語失行)被験者3名の調音データを使用し、発語失行の調音運動特徴の記述を試みた。本研究の特徴としては1)多数の健常発話者の使用による妥当性の高い健常調音の範囲推定、2)3種の発話速度で発話しており、発話速度の調音運動への影響の検討が可能となった。充分な健常発話者数と複発話速度の使用による、調音運動への発話速度の影響記述、3)、より日常会話に近い文章発話課題の使用による般化可能性の増大、が挙げられる。調音運動記述に際しては特定座標軸に影響されないという利点をもつ調音器官スピードパラメータを使用し、下口唇と下顎のnumber of speed peaks,mean peak speed,number of major speed peaks,mean major peak speed,total distance travelledを検討対象とした。 本研究の結果、健常発話者では下口唇と下顎のnumber of speed peaks及びmean peak speedに関しては発話速度の影響が認められるが、number of major speed peaks、及びmean major peak speedに関しては発話速度の影響が認められないことが判明し、number of major speed peaks及びmean major peak speedは発話の音声学的内容に関連する可能性が示唆された。予備的分析ではこれらのピークが発話の特定の時間的位置に出現することが判明し、これらのピークに着目しての調音器官の運動タイミング記述の可能性が示唆された。又、検討した調音運動パラメータの大部分に関しては、発語失行発話者の調音運動と健常者がゆっくり発話した場合の調音運動とには差が見られないことが判明し、運動性構音障害の調音運動記述に際して発話速度を考慮することの重要性が明らかとなった。
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