研究概要 |
本研究は言語が保持する音声的特性が母語話者の音声の脳内処理に及ぼす影響を検証した。まず日本語話者の音韻「感覚」に焦点をあて、日本語の母語話者が日本語とは明らかに異なる音声特性を有するフランス語の音韻を如何に捉えているかを、フランス語音の聴取時に生ずる視覚モダリティを検討することにより考察した。音韻弁別のできる日本人学習者らが音に対して想起する色に共通性が認められ、それは音の鋭さに関わる母音の第2フォルマントに関係することが判明した。これは、音韻弁別のできる学習者らがそれまでの日本語の音韻感覚を変化させ、ある共通した音韻「感覚」を持つこととなった可能性を示唆するものである。生理学的研究では,日本語に特殊モーラとして存在する長音に注目し、母語に長音を持たないフランス語話者と日本語話者における聴覚野の活動パターンに対する母語の影響を脳磁図(MEG)を用いて検討した。指標としてミスマッチフィールド(MMF)誘発脳磁場成分を用いた。日本語話者、フランス語話者ともに、長母音を含む逸脱刺激に対するMMNm(Long条件)、短母音を含む逸脱刺激に対するMMNm(Short条件)が左右大脳半球の側頭部に認められた。Short条件でのダイポール強度(|Q|)は、フランス語話者で、左右半球間に有意差は認められなかった。日本語話者においては、左半球におけるダイポール強度(|Q|)が右半球より大きく、半球間に有意な差が確認された(p<0.02)。一方、Long条件におけるダイポール強度(|Q|)は、フランス語話者では、左半球の方が右半球より大きい傾向が認められた(p<0.08)。日本語話者では左右半球間に、有意差は認められなかった。すなわち母語に弁別的な長母音を持つか持たないかで聴覚野の反応が異なることが示唆された。
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