カタカナ化された英語からの借用語を見ると、knock(ノック)とknob(ノブ)やチャプターとチャップリンの下線部のように、よく似た音連鎖でありながら、ある場合には促音つきでカタカナ化され、ある場合には促音なしでカタカナ化されている。こうした促音の生起の問題には、音響的な刺激の有無とはある程度自立して、日本語の音韻のあり方が促音を要請するという音韻論的側面があることが指摘されているが、本研究は、それとは別に、入力である英語音声の中に、本当に促音に聞こえる何かがあるのか、そして、どのような音声学的な特徴があれば促音が聞こえるのかを解明しようとするものである。これまでの研究はいずれも規模が小さく、また、英語音声の計測では、その対象が当該母音と子音の時間的側面に限定されており、先行母音の強さなど、長さ以外の側面の計測、および、単語全体の長さと当該子音の長さとの相対的関係などの計測は系統だってなされていない。 こうした研究状況を踏まえて、今年度本研究は、「どのような音声学的な特徴があれば促音が聞こえるのか」という課題への答えを探るための音声データの作成を行った。テスト語は、促音生起に関わると思われるさまざまな場合を網羅的にカバーするように、英語の1音節語と2音節語とし、2音節語の場合は3種類の音節構造の無意味語を作成した。これを4名の英語話者に発話してもらい、理想的条件下で採取し、音声データを作成した。来年度は、この採取した英語音声を用いて、広範な日本語話者による促音の知覚実験を行う。音声データの多様な音響的計測、解析と知覚実験の結果を分析することで、課題への答えを探ることになる。
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