研究概要 |
森澤は、同一の書き手による異なる種類のテキスト間の文体的相違を分析する目的で、関係詞の現れ方に関する抜き取り調査を行なった。資料の中心としたのは、16世紀のニュルンベルクを代表する美術家A.デューラーの私的テキスト(書簡など)及び公的テキスト(芸術理論書『人体均衡論四書(Vier Bucher von menschlicher Proportion)』など)である.その結果,デューラーの私的テキストと公的テキストの間には差異が見られるものの,それ以上に『人体均衡論四書』の献辞がそれ以外の公的テキスト及び私的テキストとは異なる文体で書かれていると解釈できるデータを得た.さらに調査を進めた結果,特に語彙や思考の流れの面からみてこの献辞は恐らくデューラーの手によるものではないとする見解が示されていることが分かった.そこで,文体論の立場からその見解の裏づけをし,さらに近世の書き手が公的テキストの文体に対して抱いていた規範意識をさぐることを試みた. 17世紀を担当した高田は、ゲオルク・フィリップ・ハルスデルファーが1656年にニュルンベルクで出版した『ドイツ語の書簡便覧』(Der Teutsche Secretarius)を取り上げた。この書には、書簡の書き方の原理と実例が詳細に書かれている。それを分析することで、17世紀中葉のニュルンベルクの都市貴族が、書簡のなかで差出人と受取人との社会的関係がどのように反映されるべきであると見たかをいくつかの点で再構成することができた。例えば、相手への呼びかけとしては名詞よりも形容詞の名詞化のほうが儀礼的であり、また名詞・形容詞・動詞以外に、特定の副詞や語句や統語的組み合わせも儀礼性を高める働きを有していた。さらにまた、社会的身分の違いは冒頭の呼びかけと最後の結びの言語的表現によってだけでなく、文字の大きさの違いによってもマーキングされていた。
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