本年度の研究はまずこれまでの研究データの集積と主なテキストの電子化に重点をおいて進めた。その主な成果は次のとおりである。 一、中国・日本における唐・宋時代の口語史の研究資料と、日本における禅宗仮名法語の既刊資料を収集した。 二、『夢中問答』(五山版)、『月庵和尚法語』(五山版)の電子テキストの試用版を完成し、試用した。 三、『正法眼藏』(大久保道舟編『道元禅師全集』本)の電子テキスト化を行った。目下既に同テキストの第三十五巻までの入を終え、いま校正中である。 以上の基本文献のテキスト化に平行して、他のテキストなどをも用いて、初歩的な文体指標を抽出して、分析を行った。 一、『正法眼藏』及び『夢中問答』、『月庵和尚法語』のなかから、特に中国語口語の影響による語彙、文法の文体指標を抽出し、他の禅宗仮名法語との比較を行った。 二、先に発表した、「日本語文体史資料としての中世禅宗仮名法語の研究-連体修飾節に用いられる「〜底(ノ)」を中心に-」に続いて、さらに近世仮名法語と近代文学における「〜底(ノ)」の用法まで調査の対象を広げた。これによって、中世仮名法語から現代文章語(明治時代の文学作品)にかけての「連体修飾節」に用いる表現が、「スル+ノ+名詞」の形から、「スル+底+ノ+名詞」、「スル+体+ノ+名詞」の表現を経て、「スル+トコロ+ノ+名詞」へと交代しつつ、大きく変化したことが明らかになった。 三、新しい禅宗仮名法語の文献の発掘は、二回にわたって調査したが、特にめぼしい収穫がなく、次年度に持ち越されることになった。
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