本年度の研究は、前年度に引き続いて、研究データの集積と主なテキストの電子化に重点をおいて進めた。その主な成果は次のとおりである。1、『正法眼藏』(大久保道舟編『道元禅師全集』本)の電子テキスト化を行った。目下第三十六巻から第七十五巻(辧道話を含む)の入力を終え、いま校正中である。2、これまでの『大藏經目録』との相互参照を図るために、呂澂編『新編大藏經目録』の全文を電子化し、その校正を終えた。以上の基本文献のテキスト化に平行して、前年度に入力を終えた『夢中問答』(五山版)、『月庵和尚法語』(五山版)と『正法眼藏』(大久保道舟編『道元禅師全集』本)を用いて、初歩的な文体指標を抽出した。1、上記テキストの中から、特に中国語口語の影響による語彙、文体指標を抽出し、他の禅宗仮名法語との比較の資料とした。2、先に発表した「近世仮名法語と近代文学における「〜底(ノ)」について」に続いて、近世語、近代語における「〜的」を用いる連体修飾節の用法まで研究対象を広げた。詳しい研究成果はいま整理中である。従来「〜的」が英語などのヨーロッパの言語を翻訳するために考案された表現とされいていたが、これについては、「〜的」という中国語の口語を最初に訓読文によって日本語にもたらしたのは、荻生徂徠による『六諭衍義』であること、実際近世の読み本において「〜的」の語法が散発的に行われ、江戸時代の俗語のなかにも「〜的」が用いられていたこと、明治時代には「〜的」がその他の類似表現、「〜上・〜様・〜風・〜然」との間に一種の競合関係があったことを確認した。3、禅宗仮名法語の文体についての直接の成果ではないが、「禅宗における言語観」をもとに、現代の言語研究にも十分通用する言語研究の基本姿勢についての論考を、「言語研究に寄せる断章」として発表した。4、新しい禅宗仮名法語の文献発掘は前年度に引き続いて、収穫がなかったので、来年度は軌道修正して、既存テキストの電子化と相互比較を重点的に行うことにしたい。
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