本研究は、各種万葉仮名文献と後代の中国資料、すなわち広義の音訳漢字資料に属する資料群を総合的に分析し、各時代の中国語の音韻体系と音声の様相に照らして、日本語の音声・音韻の具体相を探り、文献時代の日本語音韻史の再検討を試みようとするものである。 これまでに、日本書紀音仮名表記や江戸時代日中貿易の現場で編まれた音訳漢字資料による研究を行ってきたが、そこで得られた知見を土台に、音訳漢字文献のデータベース化を行い、中国音との対照、特に超分節的要素(韻律論的要素)を中心に、一般音声学的な観点を重視しつつ音韻体系と音価の変遷の様相を総合的に考察してきた。 本年度は、万葉仮名による韻文の表記を中心に、音節構造と字余りに関する考察を行い、そのための資料の収集と、諸情報のコンピュータ入力を進めた。 その途中経過は、2005年5月28日の日本語学会(於甲南大学)シンポジウム「字余り研究の射程」のパネリストとして「万葉歌の字余りと「古代語」」と題して研究報告を行った。 また、日本書紀歌謡および訓注の万葉仮名表記における原音声調と古代日本語アクセントとの相関については、2006年2月九州大学提出の学位請求論文の一部に「音訳漢字とアクセント」と題してこれまでの研究成果をまとめた。
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