本研究助成の最終年度として、これまで収集された音声資料の分析および結果の考察、それらにもとついた論考の執筆および学会等での報告など、研究成果のとりまとめを行った。 これまで二年間の研究活動を経て、本最終年度に取り組むべきいくつかの重要課題が明らかとなってきた その一つとして、音声資料の特性および収集方法に関する課題が挙げられる。今年度は、昨年度まで着手してきた「単独文の読み上げ」という人工的タスクを主体とした音声資料だけでなく、できるだけ自然談話に近い音声を採取するために、1)朗読文の読み上げタスク、2)一連の絵からなる物語の口頭描写タスク、などを追加し、ピッチの平坦化の世代差に関して複数の異なるレジスターから確証を得る試みを行った。さらに、それらの異なるタスクから得られた音声を分析し、分析結果のみならず分析資料の特性に関する提言なども学会等の場で積極的に行ってきた。 二つ目の取り組むべき課題として、音声ピッチ平坦化に関する知覚および社会的指標性の問題が挙げられる。これまでの二年間は主に産出データを中心に、ピッチ形状の世代差を問題にしてきたが、そのようなピッチの差が果たして当該地域社会で認知されうる程度のものなのか、さらには何らかの社会的評価と結びついているのか、など社会音声学の理論的枠組みで検証してきた。合成音声的手法と変装組み合わせテクニック(Matched-guise technique)を組み合わせて、札幌市と鹿児島市で合計約100名の被験者を対象に調査した結果、同一話者・同一文であってもピッチの平坦化を含んだ音声はそうでない音声よりも比較的若く聞かれることが判明した。 これらの結果をとりまとめ、現在報告書を執筆中である。また、広く海外の研究者にも我々の研究成果を知ってもらうため、英語で論考を準備し、国際的な学術雑誌に投稿を予定している。
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