研究概要 |
平成17年度までの調査の成果として、神奈川県立金沢文庫所蔵、高野山大学図書館所蔵の重要文献の写真撮影と一部の電子化が完了しているので、本年度は、昨年度に引き続き,それら資料の電子テキスト化とデータベースの構築を中心に進めた。 特に、神奈川県立金沢文庫所蔵「解脱聞義聴集記」、同「華厳信種義聞集記」は、鎌倉時代の学僧・明恵上人の講説の聞書類として最重要の文献であって、データベース化の作業を継続させた。この作業の過程では、両文献に大量に認められる漢字表記語に適切な読みを与えて日本語として確定させることが非常に重要となる。幸い明恵上人関係の法談聞書類は、多くが影印、翻刻されて学界に公表されており、総索引を伴うものも含まれている。これらの資料を援用しつつ両文献の本文を日本語として確定させる作業を行った。 本研究で対象とする資料群は、従来、鎌倉時代口頭語の研究資料として著明であるが、最近の研究では、単純に「口語的徴証」を抽出するのみでは、国語史の十分な解明には至らないことが指摘されてきており、研究方法においても近時様々な議論が再燃しつつある。鎌倉時代は文献資料の性格が極めて複雑かつ多様であって、文献の「口語性」「文語性」に対する記述態度、理論的普遍化の視点を一律に設定することは困難である。当該文献の資料的性格を可能な限り分析し、それに応じた記述方法を個別に工夫する必要が生じるのはこのためである。本資料群は、「聞書」「注釈」という、資料の成立過程における外形的な性格、成立目的における外郭的な側面に着目したカテゴリーであるが、このカテゴリー自体が言語的特徴を決定付ける必要十分の条件になるわけではない。そのためには、資料の本来的目的に立ち返って、言語的特徴の関係を丹念に検証することもなお有効な視点と考えられる。この観点から拙稿「明恵関係聞書類における「口語」と、「文語」の混在と機能」(『文学』8巻6号、2008年11月)で問題点の概略を整理した。
|