研究概要 |
本研究では、英語の前置詞の多義性について、認知意味論的、歴史的両面から考察していくというアプローチを取り、by、as、for、withを主な対象とした。研究結果の概要は次の通りである。 ■by 中核的意味が、古英語期では[辺り]であったが、近代までに[経由]に移動した。そう考えることで古英語期の意味分布が説明されるだけでなく、by day, by nightのような孤立した用法が熟語でしか残っていないことが説明される。 ■as as rich as Xにあたる古英語期の(all)so rich so Xの下線部から発達した。従属節側で発達したものがsoであり、主節側で発達したものがasである。接続詞としてのasには「理由」と「譲歩」という相反した意味が観察されるが、それは、(i)as自体には意味はなく、(ii)接続詞asの意味の範囲は節が二つ並んでいる時の節聞に読み込まれる関係と一致するため、asの意味とされているものは、実は節問の認知的に可能な読みである、と考えるべきである。 ■for 古英語期以前には[前]を表したが、古英語期ですでに空間的[前]の意味は弱く、by+for(前の辺り)であるbeforeが導入された。非空問的意味が古英語期にすでに発達していた理由は、「AはBの前」は「BはAの前」であることから、A-B間での方向性の解釈に認知的なゆらぎが可能であることによる。また期間と行き先を表すforはフランス語pourからの借用意義である。更に、forの研究を通じて、多義語研究に対する「孤立用法」「熟語用法」の理論的意味づけを行った。 ■with Withの特徴は、位置を表わさないという点にある。Withの多義性は、[同伴][賛成]とは概念的に逆方向である[敵対]を表し得ること、また[様態]や[道具]のように、原義と遠い意味を持つなど、他の前置詞の多義性とは質的な違いが認められる。これは、asの場合と同様に、with自体の意味ではなく、「読み込み」から来る部分を許しているからである。 最後に、これからの展望として、英語の前置詞と日本語の助詞の対照研究に広げて行くべく、デ格とニ格の名詞句の意味役割についても研究を進めた。これは、2006年度の英語学会学会ワークショッププログラム「前置詞の意味、助詞の意味」でさらに考察を広げる予定である。
|