本研究の目的は、スモールコーパス利用による文体論研究の方法の確立をめざすとともに、作品をコンピュータ利用による客観的分析および文体論的分析を双方向的に行って、量的・質的分析方法の融合を図り、新たな意味理論(theory of meaning)研究への道を開拓することにある。 第3年度に当たる本年の成果としては、オックスフォード大学出版局から出版されている専門誌Literary and Linguistic of meaning 21-3に共著論文"A Small-Corpus-Based Approach to Alice's Roles"が掲載されたことである。これは昨年度電子版に公開されたものであるが、冊子体としても出版された。 本年度の目的は、今まで構築してきたスモールコーパス利用の文体論をどのように発展させ、新しい意味理論の構築に貢献できるか、その可能性を追究することであった。その一例として、3月に刊行の予定の共著論文"Distinctness Underlying Parallelism : a cognitive aspect of Alice's moves and worlds"では、アリスのテクスト分析を認知言語学的に行い、メタファーとメトニミーで構造化された世界の異同について分析することで、新しい意味理論への応用の可能性を探った。また、英語教育への応用にも目を向け、「読みの力の育成に向けて-解読から読解へ-」では関連性理論を援用した読みの力の育成について考察を行い、これも3月に刊行する予定である。 また、研究分担者稲木昭子は、第12回日本キャロル協会研究大会(11月3日、法政大学)で特別講演。「アリスのことば学-コンピュータの向こうのアリスの国」を行い、言語的文体論研究をより精密に行うためには、コンテクストを視野に入れた質的研究による意味面の精査と、量的研究による形式面の精査を融合するという多層的な分析方法が必要ではないかという観点から、二つのアリス物語の文体論研究に、PCによる量的分析がどのように貢献できるかを示した。
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