研究概要 |
本年度においては、英語の一人称人称代名詞と発話動詞とのコロケーションに着目し、文法化の視点からの研究を進めた。具体的には、発話動詞のsay, tell, protest, advice, confessの5つの動詞を取り上げ、1人称主語とそれらの動詞が共起している例を、シェイクスピアコーパス、ヘルシンキコーパス、ドラマコーパスの3つのコーパスから拾い上げた。統語的な観点から、まずは「主語+動詞」の位置を調査し、このパターンが文頭、文中、文末のなかで、文中、文末に生起している場合に、語用論標識(pragmatic marker)となりやすいこと、また、疑問文や命令文と共起している場合に文法化されやすいことを明らかにした。 ヘルシンキコーパスを用いた分析では、初期近代英語期のなかで、I期(1500-1570年)からIII期(1640-1710年)にかけて次第にこれらのコロケーションが語用論標識となる過程が明らかとなり、文法化が進んでいることがわかった。またジャンルについても裁判記録やドラマ、劇などの口語的特徴を示すジャンルでは頻度が高いことがあきらかになる一方で、日記、歴史、旅行記などのジャンルではほとんど生起しないこともわかった。 ドラマコーパスからは、社会言語学的な特徴として、これらの構文は、主に男性の登場人物に多くみられ、女性は少ないことが明らかになった。その他に、上流階級の人物が、召使いなどの下層の人物へと使うマーカーの役割をしていることもわかった。 通時的な発達として、中英語期においては、I sayなどはまだ単独で起こることはなく、As句や副詞との共起などが見られるが、初期近代英語期にはいってから、I sayなどが挿入詞へと発達し、1700年ごろに確立していく傾向がみられ、文法化、さらには主観化の過程を証明することができた。
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