本年度においては、電子コーパスを利用した談話標識の文法化・語用論化研究に関して、特に談話標識のlook youとI pray youを取り上げて研究を行った。これらの構文がいつごろ、どのようにして文法化し談話標識として機能するようになったのかを通時的な観点から考察した。 まずlook youにおいては、lookのあとの代名詞に着目し、代名詞ごとに用例を分類し、代名詞と文法化の程度との関連を調査した。代名詞の中でも、look youが圧倒的に多く、この構文はかなりイディオム化が進んでいることがわかった。意味的な観点からは、look youの場合は、この当時から意味の漂白化が進み、談話標識として機能している例が多いということも明らかになった。 逆に、そのほかの人称代名詞と共起した命令文では、そのほとんどが命題的な意味を保持しており、談話標識として使用されている場合は少ないことがわかった。談話標識の例は、散文で圧倒的に見られるのに対し、"take care"の意味で用いられている場合には、逆にほとんど韻文で用いられているという違いがあることもわかった。この意味の違いは、この表現を使用する登場人物の社会的な立場の違いとも言え、そのためyouを用いるか、またthou/theeを用いるかという代名詞の選択の要因が、この構文の文法化に関係していることも明らかになった。 I pray youに関しては、初期近代英語コーパスでは、I pray youが最も多く用いられるが、Pray単独の例もあった。単独の場合はほとんど、挿入句的に用いられ、文副詞のように文頭に現れ、意味の漂白化とともに、文法化が進行中であることがわかった。また、初期近代英語の後期の調査では、ほぼpray単独とpritheeに集約していく過程が明らかになった。尚、本年度においては、上記の研究に関して研究発表を2件行った。 本研究は、平成16年度から18年度にかけての3年間で電子コーパスを利用していくつかの談話標識を調査してきたが、それらの構文の文法化の程度とメカニズムについてかなり明らかにすることができたと思われる。
|