本研究は、文法標識付き古英語コーパスであるThe York-Toronto-Helsinki Parsed Corpus of Old English Prose(YCOE)の検索を自作のPerlスクリプトに基づいて行い、その検索結果をもとに古英語の統語構造を分析することを目指したものである。 平成16年度から始めた本研究では、1年目にYCOEの文法タグ構造を調査し、それに基づいたPerlスクリプトによる検索方法を考察した。本年度は主にこうした検索により得られた結果をもとに古英語期における統語変化の様相を考察した。特に、再帰代名詞及び非対格構文に着目し、その発達について論じた。以下、両考察の概略である。 まず、再帰代名詞の発達に関してであるが、古英語のおける再帰代名詞には2つの形態が存在した。1つは単純代名詞形であり、もう1つはoneself形である。特に古英語初期・中期においては、前者の単純代名詞形が再帰代名詞として使われていたが、古英語後期からは徐々にoneself形が増加する様子を、YCOEの検索結果をもとに実証的に論じた。その結果、英語の再帰代名詞の発達は一種の文法化であるという結論を導くことができた。その成果は、秋元実治・保坂道雄編『文法化-新たな展開』(英潮社)に発表した。 次に、非対格構文の発達に関してであるが、現代英語の非対格構文の問題点を出発点に、古英語期において、非対格構文が再帰代名詞と密接に関係していることを、YCOEの検索結果をもとに実証的に論じた。その結果、英語における非対格構文は単純代名詞の再帰代名詞用法が消失するのに伴い、その形態的認可システムが機能しなくなり、現代英語においては統語的役割を果たさなくなったという結論に至った。なお、その成果は、昨年9月1日〜3日に千葉大学で開催されたThe Society of Historical English Language and Linguistics International Conference、及び12月3日に日本大学で開催された日本大学英文学会80周年記念大会にて発表を行った。
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