研究概要 |
本研究は,日本語におけるgood writingの要素を検討し,第二言語としての日本語におけるアカデミック・ライティングの新たな評価基準を作成,提案することを目的とする。現在,日本語教育全体で共有できるライティング評価基準はない。本研究では英語教育のライティング研究を参考に,「評価のガイドライン」(トレイト別基準,レベル別基準,レベル別サンプルとその解説,プロンプトとその解説等)を作成した。 まず,ライティング評価研究に関するレビューを行い,「マルチプル・トレイト評価表」を採用した。これは,トレイト間の重み付けがなく,目的に応じてトレイトを自由に組み合わせることができるという特徴が,本研究の目的と合致すると考えたからである。そして,学習者に書く「目的」や「読み手」を意識させるために,これらをトレイトとして設け,最終的に「目的・内容」「構成・結束性」「読み手」「日本語A:正確さ」「日本語B:適切さ」の5トレイト,0〜6のレベルを持つ評価基準を完成した。さらに,プロンプトにおいても「目的」や「読み手」を明確にし,プロンプトの指示文や評価の際の解説を工夫した。 評価基準は,信頼性,妥当性を高め,かつ使い易いものでなければならない。そこで,学習者の自己評価に使用するとともに,日本語教師20名を対象とした評価講習会を実施し,続いて参加者のうち8名に,論証型と説明型の2種のプロンプト,各26の小論文を評価してもらった。その結果得られた各トレイトのα係数は0.85〜0.93と高く,評価の一貫性が認められた。プロンプト問の相関に関しては,言語能力を測るトレイトにおいて高く,プロンプトの違いが言語能力の評価に影響しないことが示唆された。最後に,評価者間ミーティングを行った。「目的・内容」の評価に書き手の言語能力が影響する可能性,評価全体に評価者の背景,ライティング観が影響する可能性が示唆された。
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