本研究は外国語の読みの流暢さの構成概念を整理し、それを測定することを目的とする。本年度は、構成要素のうち2つのレベル(語彙アクセスと読解の処理単位)について調査した。また教育的観点からは多読が読みの流暢さの獲得に貢献することを示す実証研究を行った。 1)語彙アクセス:言語形式と概念の結びつきについて調べるため、母語(日本語)と外国語(英語)の翻訳関係に基づくプライミング効果を利用した意味カテゴリ判断課題を行った。結果、中級者のほうが上級者より語彙アクセスのプロセスで母語への翻訳を介在させている可能性が高いことがわかった。この翻訳プロセスの介在は語彙アクセスの時間を遅くする。よって語彙アクセスにおける母語の介在が流暢さに影響していることが示唆された。 2)読解の処理単位:読解の処理単位とそれが流暢さに及ぼす影響を調べるため、英文を「全体」「語」「意味のあるチャンク」「意味のない文の断片」ごとに提示させながら学習者のペースで読み進めるself-paced readingを使った実験を行った。理解度、読解速度、戻り読みについて分析した結果、理解度がほぼ同等にもかかわらず中級者は上級者より読みのスピードが遅く、戻り読みが多かった。読解の処理単位は中級者ほど小さく、かつそれが流暢さに影響していることが示された。 3)多読の効果:多読によって獲得される外国語能力を調べるため、文法力・語彙力などの言語能力一般と読みの流暢さを比較した。15週の多読の結果、どちらの能力も伸びたが、読みの流暢さの伸びの方が多かった。多読は読みの流暢さの獲得に有効であることが示唆された。
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