本研究は研究期間中に、読みの流暢さの基礎的構成概念と教室での指導評価に関する側面を扱い、以下のような点から、理論面・実証面においてほぼ予定通り研究計画を遂行した。しかし、流暢さの概念は予想以上に複雑で広いものであったことから、1つ1つの構成要素について焦点を絞った研究が必要で、今後の課題となる。 1 母語と外国語の読みの研究に基づき、読みの流暢さの概念を整理し、広く用いられている評価法・訓練法についてまとめた。 2 読みの流暢さを伸ばすのではないかと思われる多読を大学の英語の授業で実践し、EPER testにより、英語力の伸びを調査し、予測通り、読みの流暢さの方が英語力一般よりのびが大きいことを検証した。またEPER testの内的一貫性と採点者間信頼性が高いことを確認した。 3 流暢さを構成する1要因である語彙処理について、中級レベルの学習者は上級者より、英単語から意味を理解するとき母語介在ルートを使用し語彙処理速度が遅いことを確認した。流暢さのためには、外国語の形式と意味の直接的結びつきが必要であるが、学習者のレベルがあがるにつれて徐々にこの直接的結びつきが形成・強化されることが確認された。 4 流暢さを構成する1要因である統語処理について、チャンク化の効果を調査した。中級学習者は適切なチャンクに文が区切られないと、理解が困難になることを確認した。しかしチャンク化の効果は読みの速度には特に現れず、中級者は上級者よりどんな条件でも読む速度が遅かったことから、読みの速度には統語処理の以前の語彙処理における速度が影響しているのではないかと思われた。 5 研究協力者の協力を得て、読解速度の訓練に資するコンピュータソフト、語彙処理の基礎となる音韻認識、外国語学習者のリテラシー能力を調査したオランダの研究(NELSON project)について紹介した。
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