研究概要 |
対話を中核にした対面相互行為には種々の「社会的仕組み」が随所に現れるものと想定できる。これは一言語共同体で歴史的に形成、蓄積された支配的な文化的特性を反映した種々の言語慣用および行動様式によって構成される。本研究ではこれら「仕組み」の内、ドイツ語と日本語母語話者を対象にして「話者交替」,「礼儀正しい言葉使い」、これに密接に関連する「面子」、「聞き手のシグナル」そして自己主張に代表される論証様式に焦点を絞り、非言語行動も含めて解明と実証的な記述を行う。ここで中心的課題になるのはこれら社会的仕組み及び論証様式が日本とドイツの社会でどのような言語形式で表現され、それらにいかなる重要性が認知されているかをまず特定、解明することである。 「礼儀正しい言葉使い」の枠組みでは日本語母語話者により度々「話者交替」のルール違反と見なせる、礼儀正しさを欠く「聞き手のシグナル」が発信されている。これと並行してドイツ語母語話者は提示された質問を自分が答えやすい形に何度も言い換えた上で回答する「消極的礼儀正しさ」のストラテジーを行使したと解釈できる行動が観察できた。 政治討論の対照的分析ではドイツでは焦点となる政治問題に関して正面から賛否両論を闘わせる思考法がごく一般的と見なせる。この点、日本語の討論では核になる重要な論題に関しては意見を正面から戦わせるのをむしろ避ける傾向が認められる。論証様式に関してはドイツ語母語話者では初めに結論を述べ、その後に根拠づけ(論証)を行うパターンが約90%を越す頻度で現れている。これに対して日本語の政治討論ではこれと同じ様式が約60%を占め、これと逆の初めに根拠づけ(論証)を行い、後に結論を述べる様式が約36%の頻度で確認できている。これに関わる非言語行動では日本語の討議では政治家が頭を縦に振りながら聞き手のシグナルを発信する対応が頻繁に見られる。この点、ドイツでは聞き手が発話者に視線を合わせたまま、黙って傾聴する姿勢が一般的と言える。
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