「国民国家」として形成された「近現代日本」における「近代知」を形成する重要な一部分として中国古代史研究を捉え直そうとする本研究の目的達成のために、本年度は主として関連する研究文献のリスト作りと文献の収集ならびに読解を中心的な作業として行った。文献のリストアップに際しては、戦前期の「中国社会論」・中国古代史研究や日本古代史研究の学説史を本研究の関心に沿う形で批判的に整理し関説している研究・津田左右吉を中心とする戦前期の著名な中国研究者について言及のある伝記的研究や歴史社会学的研究・近現代日本のアジア認識に関わる研究に着目した。戦前期の中国社会論ならびに我が国における中国古代史研究や日本古代史研究の進展に際しては、マルクスの思想の受容のあり方が、個々の議論に大きく影響したとの見地から、近年までにもおけるマルクス研究の動向にも注意を払いつつ、文献の収集・読解に努めた。また、戦前期の著名な中国研究者として津田左右吉や内藤湖南に注目したが、両人の歴史研究の具体像とそこに見える「思想性」との連携の追求は今年度においては必ずしも十分には深められず来年度以降の課題として残さざるを得なかった。なお、戦前期におけるマルクス思想の中国古代史研究に与えた影響は必ずしも大きいものとは言えなかった訳であるが、志田不動麿氏の研究の再読解などを通して、その影響の量的な面と質的な面について、来年度以降の研究の進展の手がかりを得ることが出来た。いっぽう次年度以降の重要な論点として、戦前において平野義太郎・森谷克己等の中国研究が広く受容される中で古代国家史研究がなぜそうした研究動向と距離があったのかについて究明することを挙げられるが、この点に関しては文献の収集を中心として、一定の作業の進展を見ることが出来た。
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