本年度は、まず18世紀前半の幕府による長崎貿易政策の変化を、長崎奉行就任者の変化を通じて考察した。(1)元文期の長崎奉行と勘定所 この時期に長崎奉行となった萩原伯耆守美雅について明らかにした。萩原は一貫して勘定所役人を務める家柄の出身であり、元禄の貨幣改鋳に携わり、蔵奉行を経て勘定頭に昇進した。そして正徳〜享保年間には勘定吟味役として活躍し、この時期の貨幣政策や河川問題、宮廷御殿の建築などさまざまな事業に関わり、その後佐渡奉行に昇進した。そして元文年間には長崎奉行となる。これまで、長崎奉行は番方を皮切りに出世してゆく旗本が着任していた。そのため勘定方からの長崎奉行就任は極めて異例のことであった。それだけに、萩原の長崎奉行就任は、この時期幕府がいかに長崎貿易の管理と利益銀に注目していたかが窺える。そしてこれ以後、このような幕府勘定所と深い関わりのある人物が長崎奉行に就任するようになる。(2)「長崎代々記」(長崎市立博物館)の活字化 歴代の長崎奉行についてはさまざまな史料に載せられているが、これも重要な史料を一つである。(3)九州大学九州文化史研究所史料調査 12月と2月の2回にわたって、主に松木・古賀文庫所蔵の文書の調査を行った。ここでは長崎奉行関係史料と、幕府の長崎貿易政策の変化、及び長崎地下役人の役職規定の変化や、彼らの日記、幕府からの命令書を編年体で記録したものなどを撮影した。(4)大村市立史料館史料調査 ここでは初村家文書のうち、長崎貿易における輸出商品の俵物や銅などの数量の推移や、長崎会所の会計史料、寛延・宝暦期の貿易改革に関する申渡書など、長崎貿易に関する史料の撮影を行った。また、大村家文書では、幕末に長崎奉行となった大名の大村丹後守純熈について調査した。(5)ハーグ国立中央公文書館所蔵史料のマイクロフィルム 昨年オランダにおいて長崎貿易に関する貿易帳簿の史料をマイクロフィルムで取得し、今年度に一部の焼き付けを行った。(6)寛延・宝暦期の長崎貿易改革の実態解明 史料調査により、さらにこの時期の改革の具体的な内容を明らかにした。(7)「長崎奉行の研究」原稿の完成 これは17世紀後期から18世紀中期までの長崎奉行の特質の変化、そしてその背景にある幕府の経済政策と対外政策の大きな転換について述べたものであり、来年度出版予定である。
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