本年度は、次に示す項目について研究活動を行った。 まず(1)近世初期の長崎奉行の職掌と役割 近世初期の幕府による対外政策の最重要項目は、キリシタンの取締であった。従って、長崎奉行の職掌としてもこれが重要な任務となり、それに沿ったかたちで長崎奉行制度も整備された。また長崎奉行の創設に関する論争を整理し、近世初期の長崎奉行制度について新たな見解をだした。 (2)18世紀中期長崎奉行の特質 この期間についてはすでにこれまで研究を重ねてきたが、ここでは、補足として萩原伯耆守の長崎奉行就任後の政策にっいて「御書付」(長崎歴史文化博物館所蔵)により、萩原が貿易縮小政策を採っていただけでなく、長崎会所の組織整備にも尽力していたことを明らかにした。また石谷備後守については、石谷が田沼政権下において主要な経済政策を推進していた勘定奉行であり、長崎奉行を兼職した後は、「御国益」政策を掲げ、長崎貿易の取引額は現状を維持したまま、利益率だけをあげる政策を進めた。この考えの背景には石谷と新井白石との深い関係があったことを示した。 (3)オランダにおける史料・文献調査 8月の3週間ほど、オランダのライデンに滞在し、オランダ国立ライデン大学図書館、同大学民族学研究所(KITLV)、同大学ケルン研究所、ハーグ国立中央公文書館において、18世紀のオランダ東インド会社による日本貿易政策の推移、日本銭(寛永通宝)の輸出状況に関する史料並びに文献を収集した。 (4)長崎歴史文化博物館史料調査 3月に史料調査を行った。ここでは、長崎奉行、日蘭貿易に関する史料を複写した。 (5)「長崎奉行の研究」の出版 これまでの3年間の研究成果をすべて盛り込んだものである。全8章からなり、「長崎奉行代々記」と「長崎奉行文献一覧」を付録として本末に載せた。これは9月に原稿を提出し、10月末から校正を開始し、3月末に出版した。
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