本年度の研究実績は、以下の四点にまとめることができる。 まず第一は、古代中国と日本の銭貨と市関係史料の集積を行ったことである。中国文献に関しては漢代と魏晋南北朝の銭関係史料のカード取りをほぼ完了した。また日本古代の文献に関しては、銭関係史料の電算化を正倉院文書を除く文献に関しては終了し、正倉院文書の電算化に取り組み始めている。また市関連史料の集積はほぼ完了して次年度の電算化を待つまでになっている。この作業のために研究支援者二名(一時的に四名)を雇用し、森研究室において森の監督と指導の元に作業を行った。 第二は、埼玉県・兵庫県・島根県の和銅・和同開珎の出土地・銀鉱山への出張を行い、現地調査とともに発掘担当者等から報告書では窺えない発掘の経緯等の具体的かつ貴重な情報を得たことにある。 第三は、続日本紀研究会五十周年記念論文集『続日本紀の諸相』に、「古代における差別と排除の論理二考」を発表したことである。ここでは、近年有力になっていた庸の品目中には〓や絹は存在しないという説に対して、庸布の収納と和同開珎の発行と雇役制との関係、および采女制度との.関わりの中で庸の品目として縄・絹が存在すると考えるべきことを論じた。この論証過程において重要な役割を担ったのが、雇役丁への賃金が和銅三年以降庸布から和同開珎銅銭への移行という事実の指摘にあった。 第四は、無文銀銭から和同開珎の発行に至る貨幣政策に関する論文をほぼ完成にちかづけたことである。この論文に関しては、次年度の早々に学会誌への投稿を果たしたい。
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