平成十八年度の研究実績は以下の二点にまとめる事ができる。 【(1)和同開弥の価値の変遷解明】和同開珎が和銅元年に発行された事はもはや異論を立てる事ができない事実と認められる。ただ和同開珎の価値がいかにして設定されたかについては、かっては村尾次郎・栄原永遠男などの稲・布との換算率の設定という考え方が通説であった。しかし、森の研究により現在では、銀との換算率の公示に依ったという説が有力となっている。その中で、森の銀一分=銀銭一文=銅銭十文の説に対して今村啓爾が銀銭と銅銭を同価とすべきという批判を公にしている。本研究では、この今村説に対して逐一批判を加え、自説の補強を行った。また、奈良時代末期の新銭発行にともなう和同開珠の価値の下落に関して、井上正夫からシュミレーションを用いて出された批判に関しては、ありうる想定の一つに過ぎず、公理系における変数の変更を行えば、そのまま井上への批判・森説の補強になることを指摘した。 【(2)貨幣と穣れの関係の考察】貨幣の厭勝法的研究が近年盛んに行われてきているが、そのような研究の中で若干問題を含む研究も多く見られる。その典型として国立歴史民俗博物館が編集した『お金の不思議』がある。そこでは新谷尚紀や栄原永遠男が貨幣那ケガレた存在であること、貨幣を神に捧げることは、貨幣と所有を浄化することになるといった議論を展開している。これに対して、神祇令散斎条を根拠に少なくとも日本古代において貨幣がケガレである事は有り得ないことを解明した。
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