研究概要 |
本研究成果は、以下の五点にまとめることができる。 (1)藤原京より出土した門労木簡の新しい釈文による分析の中で、8世紀当初にはすでに富本銭の流通はなかったと考えなければならないことを、価値尺度として富本が使われていないことから明らかにした。 (2)7世紀末から、古代の価値体系において基本的な価値尺度機能をになったのは銀であり、布がその補助的役割の位置にあったことを同じく同上の門労木簡の分析から明らかにした。 (3)和同開珎の価値が、i)価値尺度機能を担っていた銀によってその価値が公示された時期,ii)銅地金の価値が大きく規定している時期、iii)他の銅銭の価値によって規定された時期、iv)銅地金によって規定された時期、という四つに大きく段階づけることを明らかにした。 (4)近年の、貨幣は穢れている、その所有者と貨幣を浄化するためには、神に貨幣を賽銭として投げなければならないという学説が出され、一定の影響力を振るっている。しかしこのような考え方は、日本の古代の祭祀体系からはあり得ない考え方であり、神への贈与や罪の祓いのために神にささげる物はけっして穢れたものではないことを明らかにした。これに関連して、罪と障害に関する神話の性格を歌垣との関係によって解明した。 (5)宝亀年間の借銭解の全体像を解明するための、基礎作業としての一覧表の作成と全体の収支に関するいくつかのありうる可能性を想定したシュミレーションを行った。
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