本研究は、近代オスマン帝国において海洋活動にたずさわった人々のエスニシティと地域性を分析することにより、オスマン帝国末期の社会構造を「ヒト」を核としてとらえ直そうとしたものである。具体的には、エスニシティについて、(1)「海運業におけるルーム(ギリシア人)の役割」、地域性について、(2)「黒海沿岸地方から帝都イスタンブルへの人材の供給」というテーマを設定し実証的な研究を行った。(1)に関しては、ギリシアの独立がオスマン帝国海軍にもたらした人材供給面における重大な影響を徴兵制度関係史料にもとづいて明らかにした。(2)に関しては、海軍と官営汽船それぞれの人事記録から海洋活動に従事した人々の出身地のデータを抽出し統計処理を行った。海軍については、イスタンブルの海軍博物館付属歴史文書館所蔵の近代オスマン海軍の人事記録から海軍軍人の出身地に関するデータを収集し分析を行った。官営汽船に関しては、ドルコ海運公社が所蔵する『給与台帳』のうち官営汽船が「特別局」の名の下に運航していた1876年から1910年までの全129冊の台帳の総目録を作成後、29冊を選びデータ・べースを構築して分析を行った。上記研究の結果、黒海沿岸地方が海軍や官営汽船海運に対して人材供給の上できわめて重要な役割を担っていたとの結論を得た。
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